ぼくたちは一生懸命な恋をしている
あいりちゃんと関わるようになって、規格外に美しい人を何人も見てきた。これ以上はないと思っていたのに。
王子の隣には、ファンタジー映画から抜け出してきた妖精のような人がいた。きらめくプラチナブロンド、雪の肌、日本人どころか人間離れした美しさに圧倒されて声も出ない。
「ちっこい眼鏡のほうがあいりで、こっちの子はあいりのオトモダチだよ」
王子の雑な紹介を受けて、その人はゆっくりとこちらへ歩いてきた。近づいてみると、毛穴一つ見当たらなくて、瞳はラベンダー色、まつ毛はプラチナの羽で、隙のない造形はまるでCGみたい。そんな人に真正面から見つめられて、さすがのあいりちゃんも固まってしまっている。
「こんにちは。宇佐美セイラといいます」
儚げな容姿とはギャップのある低めの声は、間違いなく男性のそれだった。
「こっこここんにちはっ」
「ふふ。あなたが、あいりさん」
セイラさんは、初対面のはずのあいりちゃんのことを、ことさら情のこもった目で見つめていた。
「聞いていたとおりの愛らしい人ですね」
「オレそんなこと言ってない!」
すかさず反論した王子の頬が赤い。そんな可愛い反応はテレビでも見たことがない。セイラさんは口元を隠してクスクスと笑った。
「さて、わたしはそろそろお暇します」
「えーっ、もうちょっといてくれてもいいじゃん」
「仕事なんです。最終日には、また来ますから」
「絶対だよ」
「はい。絶対です」
駄々っ子に言い聞かせるようにセイラさんは王子の頭をなでる。その王子の顔がとろけたのを見て、私は思わず目をそらした。変な声を出してしまいそうで、慌てて両手で口を押さえる。
間違いない。王子は今、恋をしている。
セイラさんを見送っても、王子は頭をなでられた余韻に満足そうだった。
「かなでの好きな人って、いまの人?」
どうやら、あいりちゃんも知らなかったらしい。
「うん。すっげー美人だったろ!」
誇らしげな王子。わずかな陰りもない笑顔に、あいりちゃんは戸惑っていた。
「でも、男の人だったよ?」
純粋な疑問だったと思う。私も、偏見はないつもりだったけれど、頭で考えるのと実際に直面するのとでは、重さが違う。家族であるあいりちゃんなら、なおさらどう受け止めればいいのか分からなかったのだろう。
おろおろとする私たちに、王子は真っ直ぐに言った。
「オレは男を好きなんじゃない、セイラを好きになったんだ。セイラを形づくる要素のひとつが、たまたま男だっただけで。人を好きになるのに性別なんて大した問題じゃない。セイラがセイラである限り、オレはどんなことがあってもセイラを愛せる」
決して腹の中を見せず、上っ面ばかり整えて媚びを売る、私の嫌いな王子は過去のもの。彼は、変わった。
「オレは自分の気持ちにウソはつかない」
迷いなく言いきる姿はまぶしくて、この心のよどみを浮き彫りにする。
私も意地を張らず素直になれていたら、今頃どうなっていただろう。もう、何もかも今更だけれど。
王子の隣には、ファンタジー映画から抜け出してきた妖精のような人がいた。きらめくプラチナブロンド、雪の肌、日本人どころか人間離れした美しさに圧倒されて声も出ない。
「ちっこい眼鏡のほうがあいりで、こっちの子はあいりのオトモダチだよ」
王子の雑な紹介を受けて、その人はゆっくりとこちらへ歩いてきた。近づいてみると、毛穴一つ見当たらなくて、瞳はラベンダー色、まつ毛はプラチナの羽で、隙のない造形はまるでCGみたい。そんな人に真正面から見つめられて、さすがのあいりちゃんも固まってしまっている。
「こんにちは。宇佐美セイラといいます」
儚げな容姿とはギャップのある低めの声は、間違いなく男性のそれだった。
「こっこここんにちはっ」
「ふふ。あなたが、あいりさん」
セイラさんは、初対面のはずのあいりちゃんのことを、ことさら情のこもった目で見つめていた。
「聞いていたとおりの愛らしい人ですね」
「オレそんなこと言ってない!」
すかさず反論した王子の頬が赤い。そんな可愛い反応はテレビでも見たことがない。セイラさんは口元を隠してクスクスと笑った。
「さて、わたしはそろそろお暇します」
「えーっ、もうちょっといてくれてもいいじゃん」
「仕事なんです。最終日には、また来ますから」
「絶対だよ」
「はい。絶対です」
駄々っ子に言い聞かせるようにセイラさんは王子の頭をなでる。その王子の顔がとろけたのを見て、私は思わず目をそらした。変な声を出してしまいそうで、慌てて両手で口を押さえる。
間違いない。王子は今、恋をしている。
セイラさんを見送っても、王子は頭をなでられた余韻に満足そうだった。
「かなでの好きな人って、いまの人?」
どうやら、あいりちゃんも知らなかったらしい。
「うん。すっげー美人だったろ!」
誇らしげな王子。わずかな陰りもない笑顔に、あいりちゃんは戸惑っていた。
「でも、男の人だったよ?」
純粋な疑問だったと思う。私も、偏見はないつもりだったけれど、頭で考えるのと実際に直面するのとでは、重さが違う。家族であるあいりちゃんなら、なおさらどう受け止めればいいのか分からなかったのだろう。
おろおろとする私たちに、王子は真っ直ぐに言った。
「オレは男を好きなんじゃない、セイラを好きになったんだ。セイラを形づくる要素のひとつが、たまたま男だっただけで。人を好きになるのに性別なんて大した問題じゃない。セイラがセイラである限り、オレはどんなことがあってもセイラを愛せる」
決して腹の中を見せず、上っ面ばかり整えて媚びを売る、私の嫌いな王子は過去のもの。彼は、変わった。
「オレは自分の気持ちにウソはつかない」
迷いなく言いきる姿はまぶしくて、この心のよどみを浮き彫りにする。
私も意地を張らず素直になれていたら、今頃どうなっていただろう。もう、何もかも今更だけれど。