ぼくたちは一生懸命な恋をしている
セイラは、とてもゆっくりと食べる人だった。オレの皿は次々と空くのに、セイラの前には皿が渋滞していて、気がついたときには顔を見合わせて笑った。

オレたちは、いろんな話をした。仕事のこと、兄貴のこと、絵を描くこと、共有できる話題もあれば、家族のことや過去の話になるとオレばかりがしゃべらされてセイラははぐらかした。そこに、きっとセイラがかたくなに守っている本心があるように思えてならない。
救われてばかりで、どうする。オレだって、セイラの力になりたいのだ。
もっと寄り添わせてほしい。その決意を表すための、告白。


食事のあと、花束が運ばれてきた。
満開に咲く黄色いひまわりの花束。
オーナーに協力を仰いで、オレが用意した。

「冬にひまわりなんて、どうしたんですか」

「セイラに一番似合うと思ったから」

季節外れで手に入れるのに苦労したけれど、妥協しなくてよかった。オレが手渡した太陽の花を抱いて、めずらしく驚いた顔が可愛い。

「ひまわりの花言葉、知ってる?」

「……いいえ」

「『私はあなただけを見つめる』っていうんだよ」

オレを見つけて、手を差しのべてくれた人。
本当の世界を教えてくれた人。

「セイラが好きです。オレと付き合ってください」

見つめ合う。まばたきもせずに。

「……わたしに、こんな花が似合うなんて思うのは、世界中であなたくらいですよ」

まぶしそうにひまわりを見て、セイラは人形のようにほほ笑んだ。

「花束だけ、いただきましょう。花に罪はありませんから」

その言葉を選んだセイラの心持ちに、傷ついた。

「セイラはオレの気持ちが罪だって言うの?……オレが子どもだから?」

「それもありますけど、まず男だから、ですよ。あなたって、ほんとにズレてますね」

「そんなのたいした問題じゃない」

「そう言い切れてしまうところがダメなんです。あなたは苦労を知らない」

「苦労なんて、セイラとならいくらでも乗り越えられる」

「わたしはあなたに、そんなことは望んでいません」

きっぱりと言い切られ、喉が詰まった。

「いいですか、かなで」

揺るがない瞳に射抜かれる。

「わたしはあなたの人生に交わらないまま、あなたを見守っていたい。これがわたしのあなたへの最上級の愛のかたちです」

誰にも踏みこませない。セイラは他人と一線を引いている。きっと誰のものにもならない、美しい人。
そんな人から、愛、という言葉を引き出せた。

「かわいい子。あなたのしあわせを願ってる」

そっとこの肩を抱き寄せて、セイラは頬にやさしいキスをくれた。オレとセイラのあいだで、ひまわりたちがクスクスと笑う。胸がちぎれそうに痛いのに、触れたところはあたたかくて、余計に痛い。

恋は叶わなかった。
その代わりに与えられたこの愛を受け入れよう。ずっと見守ってくれるという言質を得たのだから、これは別れじゃない。悲しむ必要はない。涙なんて流したくない。

「……セイラを好きになってよかった」

熱を持つ目を細めて笑うと、セイラは「ありがとう」と幸せそうにほほ笑んだ。
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