あたいの運命
あたいの耳に残るは、坂を駆け下りる音。
スリッパの音、サンダルの音が
「ツカツカツカ」と鳴る。
誰一人として靴を履くものはいない。
履く暇さえなかったのだ。

逃げる道はいつも同じ。
公園近くの商店へ急ぎ
外付けされている電話ボックスへと
駆け寄る。
あたりは寝静まっている。
公園の街灯だけが
ポツンと寂しげに光を照らしていた。

「ねぇ、商店のオバチャンに相談して
助けてもらおうよ。」
幼いあたいは大人の事情を理解できずに、
ただ助かることを考えた。
「バカ言いなさい。他人にそんなこと。」
母は目を三角にして怒った。

「目を三角にする。」というのは
祖母が言い出した表現で
怒りを露にした母の目の形を
例えたものだった。

凄く長い時間
商店の傍で過ごしたような気がした。
父が電話したのは叔母の家。
つまりは父のお姉さんの家庭だ。
叔母の家からあたいの家まで車で30分。
そんな距離なのに1時間近く待たされた。
家から飛び出して1時間経過し、
叔母のワゴン車が目の前に止まった。

父が遅かったね、と聞くと
驚きの回答が・・・
「お風呂に入って来た」
血の繋がりって何だろう?
心から両親に聞いてみたかった質問だった。
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