青蝶夢 *Ⅱ*
伊吹は、遠い昔を
思い出していた。

『うわぁ~、きれい』

大きな瞳を輝かせて
青い蝶の花を、見つめていた
秘色。

『お兄ちゃん、手を出して
 目、閉じて

 早く、早く
 
 それ、あげる
 バイバイ』

9歳の秘色は、頬を真赤に
染めて、両手を大きく
左右に振って走って行った。

俺の手の上に置かれた
真赤なリボンの付いた箱。

ハート型のチョコレートに
『すき』と書かれていた。

『ママがお仕事から帰るまで
 お兄ちゃん、いっしょにいて
 おねがい』

彼女の悲痛な叫び声・・・

伊吹の瞳から、涙が溢れて来た

俺は、秘色を縛りつけ彼女の
心を、たくさん傷つけた。
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