青蝶夢 *Ⅱ*
伊吹は、辺りを見渡す。

秘色の思い出の詰まる
この部屋に、芳野は
一人きり・・・

「このままじゃ
 ヨシノ、お前は過去に
 縛られたまま・・・」

秘色の思い出に縛られたまま
毎日、辛い日々を送る。

片付ける必要がある・・・

秘色の物に手を触れようと
した伊吹に、芳野は言う。

「そのままにしといて・・・」

芳野の辛く、頼りない声に

伊吹の胸は、痛くなる。

苦しくなる・・・

伊吹は寝室から、タオルケットを
取り、ソファーに横たわる芳野に
かけてあげた。

そして、時計を見て
起きているのか、いないのか
分からない、芳野に向って言う。

「俺、帰るわ」

伊吹の手首を掴む、芳野・・・
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