青蝶夢 *Ⅱ*
持って出る荷物は、ほんの僅か

これだけじゃ、とても足りない

私はもう一度、とりあえず今
必要な物だけを鞄につめていく

芳野の元へ戻れないのなら
あの街に私の生活に必要な物は
何ひとつ無い。

乾いたばかりの畳んである
洗濯物は、入院中に母が
用意してくれた下着や洋服。

それをそのまま、鞄につめる
私は、その手を止める。

零れいく涙・・・

零れて、鞄の中、洋服の上に
落ちた。

鞄のチャックを勢いよく
閉じる私。

時間が許されるギリギリまで
この場所で、今のうちに
涙を流しておこう。

伊吹の傍で、芳野を想って
泣くことはできないもの。
< 66 / 334 >

この作品をシェア

pagetop