◆あたしの砂時計◆

 あたし、この時間に来ていっぱい、チャンス、逃してきたよね。

 だって、あたしが知っている記憶では、一言だって良一君、大野良一と口を聞いたことがない。

 だから、話せただけでも嬉しくて、本当にしなければいけない事に、目を背けていた。

 あたし、伝えたい!!

 良一君との時間が、またすれ違ったままに戻ってもいい。

 今、この想いだけでも伝えたい!!


 ♪ピロリロリン

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 メール受信 1件
  ─ ─ ─ ─ ─
 From:大野 良一
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 タイミングが良いのか、悪いのか、心の準備が完全になる前に届いたメールに携帯を落としそうになった。

 心臓が跳びだしそうな程、脈を打つ速さが加速している。

 落ち着けぇ、香穂。

 掌に『人』の文字を指で書き、飲み込んで、大きく深呼吸をして、ようやくメールを開く事ができた。


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 よぉ☆

 これから 練習試合あるんだけど、見に来ねぇか?

 場所は、学校裏の第2グラウンドな。

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 まだ、行くとも返事してないのに、ご丁寧に場所まで書いてくれちゃって。

 行く!!

 あなたのボールを追いかける姿、ちゃんと近くで見ていないものね。

 勇気を踏み出す第一歩に、親指で携帯の操作を素早く行った。

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 Sub:連絡ありがとう☆
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 直ぐ行くね

  ── 送信 ──

 不思議。

 あたし、学校にまだいるって伝えていないのに。

 メール交換して暫く経つけど、初めてのメールが試合の誘いなんて。

 良一君らしいね。



 こんなに近くで、試合を見るのは初めて。

 といっても、部外者のあたしは、フェンスの外から見守るだけ。

 11人の選手は皆、真剣な眼差しで、汗を飛び散らせながら必死にゴールまで攻めている。

 動きの早いボールにも、瞬時に判断をつけて。


 ─ 9 ─


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