◆あたしの砂時計◆
サッカーの事なんて全く分からない。だから、誰がどのポジションなのかということも。
それでも、このキラキラした世界をずっと脳裏に納めたくて、彼らを、中心にいる彼を一瞬たりとも見落とすことなく、瞳だけで追いかけた。
握った手の拳も次第に汗ばんできた。
ハーフタイムに入り、良一君は、あたしに気が付き、手を振って駆けてきた。
「宮田、来てくれたんだな。中入れば」
「ううん、此処でいいよ」
それ、無理だから。
だって、このフェンスの並びに黄色い声で声援する女子逹と、痛い視線が飛んでくるんだから。
あたし、認められたカレカノなんかじゃないもの。
ねぇ、良一君。この試合が終わったら、あなたに伝えたい事があるの。
聞いて、くれるかな?
目の前にいる彼の姿が、グラウンドの土が薄れていく。
嫌だ!!
あたし、まだ何も伝えていないんだよ? お願い。ちゃんと彼に一つの言葉だけ伝えさせて!!
「おや、この時間に満足行かなかったかい?」
「あの時の……。だって、伝えたい言葉まだ伝えてないもの!!」
「あれっ? 可笑しいね。あんたが強く願った事は会うことじゃろ?
この飴では一つの願いしか叶えられないよ。それも実際の世界ではない。
パラレルワールド限定でね」
そんな……。
会って、日常会話を交わして、心に思い出だけ作られても何の意味もないよ。
伝えて初めて、意味のあるものになるんだから。
良一君は優しいからみんなから人気がある。
それでも、伝えたい。
今からでも遅くないなら、もう一度、今度は伝えたいよ。
「いいかい、飴はこれが最後だからね。頑張りなされ」
……最後。
そうだよね。いくら願いが叶うって言っても、こんなペロペロキャンディーにばかり頼ってられないものね。
渡された飴を手にしたまま、しばし、飴と睨めっこをしていた。
この飴、使う?
それとも、そんなものに頼らないで頑張ってみる?
─おわり─
─ 10 ─