◆あたしの砂時計◆

 腰は『く』の字と言うより『つ』の字に曲がり、頭の天辺からつま先まで黒っぽい衣装。

 頭巾の下から零れる髪の色は、白って言うより白銀のようにも見える。

 まるで、御伽話に出てくる魔女だよ。

 こんな格好の人の言葉なんて信じたくないけど、『また後悔しても……』この言葉が頭の中をリフレインしている。

 ……また。

 貴女は、あたしの何を知っているっていうの?

 あの時の想いは誰にも伝えていない。

 でも、『また』と言う言葉で連想出来るのは、あの日ベルを鳴らせなかったあの時の事だけ。


「あの日をやり直せるの?」

「信じる信じないは、お嬢さんの自由だよ。この飴を舐め終えるまで強く念じるんだ。後悔した出来事、人、日付をね。」

「念じる?」

「簡単だろ? 但し、注意が一つだけある──」

 念じる時に『もしも』と付けないと、あたしはこの現実の世界に帰れなくなるって……。

 そんな、漫画みたいな話、あるわけないじゃない。


「もしも……」

 自分の意とは反して、いつの間にか口が開いていた。


「そうだよ。この飴は『もしも飴』っていってね。心の中で強く願った者だけ、一時的にその世界に行く事が出来る。どうだい、優れものじゃろ?」

「そう……ですね。でも、そういうのって、高いんでしょ?」

 今、オレオレ詐欺とか、騙しとか流行っているもの。

 これも、新手のインチキ商売よ、きっと。


「お代はとっくに頂いとるよ」

「えっ!?」

「あんたの強き想いをね」

 私の想い? お金はとられないって事? 

 それだったら、試して見るのも悪くはないかな?

 どうせ、今日は良い事なんか無いんだもの。騙されたと思えば笑えるよね。


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