◆あたしの砂時計◆
「その飴使います」
「そう来なくっちゃ。あぁ、それともう一つ忘れてた。これも役に立つじゃろうから、持って行きな」
懐中時計?
……しかも、針が止まったままだし。
「飴を舐め終え、あんたの想う世界に着いたら、時計の上にあるネジを右に5回まわすんだ。後は時計に聞きなされ」
時計に聞く?
針が動かない時計が喋るとでも言うの?
もう一度確認を取ろうと思ったけど、今話をしていた黒い頭巾を被った老婆の姿は、何処を見ても見当たらない。
……夢、ではないようね。
その証拠に左手にペロペロキャンディ、首にかけられた鎖の先には針が動かない懐中時計。
何事も無かったかのように、このまま学校へ行くのは簡単なこと。
でも
このチャンスを逃してしまったら、本当に二度と会えなくなる、気がする。
何を根拠に、そう思ったのかは分からないけど、身体中に不思議な電気が走ったのは確か。
制服姿に、口より大きな飴を必死に舐めるって、滑稽かな?
この時は、そんな事も考えず、とにかく会いたい気持ちで、いっぱいだった。
─ 3 ─