『クルマとタバコとカンコーヒーと…』【リアル物語ケータイ小説版】

STARTING OVER【最終章】

第１６１話


★★★第３部★STARTING OVER★★★


　高速に流れる雲を見つめていた。

霧のような雲が晴れて一面の海が広がる。

　下降し始める機体でＧを感じながらタイヤの着地音が響く。

両手で顔をはたいて、目じりにぐっと力を込める。

　空港の滑走路を横目に、遠い昔に見た景色を眺めるような眼差しの昭太郎は日本の初夏の陽射しにシャツの袖をまくった。

「とうとう帰ってきたなぁ・・・帰って来れたんだな・・・」
　と呟いて、ひとつ頷いた。

　足を引きずりながら、細身の体をゆっくりと動かす昭太郎。

　苦痛の中に笑みを浮かべ、トランクに寄りかかりながら一歩一歩を楽しむように足を運んでいる。

入国審査でパスポートを見せ、審査員に感慨深く頭を下げる。

帰国団体より少し遅れてゲートをこえた昭太郎にストロボとシャッター音が浴びせられた。

パシャ・パシャ！パシャ・パシャ・パシャ！

「ご帰国の感想をどうぞ！」と藤木光隆がマイクを持って笑っている。

ビデオカメラが寄る。「手術は成功したんですよね？」駆け寄る記者風にスーツを着込んだ鶴見勇介に一言。

「あほか！」
　そう微笑みながら答えた昭太郎は勇介にハイタッチをして歓喜の声をあげた。

まるで外タレの来日のような大勢の人々に帰国を歓迎され、鳴り響く太鼓やラッパ音のなかハイタッチと握手は繰り返された・・・。

「よくやった・・・やりきったな・・・」相楽敏哉が奥歯を噛みしめた笑顔をつくる。

「手術成功おめでとう。待ってたよ」木村綾乃が俯きながら瞳をあげる。

「これからまた楽しみにしてます」凛々しい顔をみせる貴明と並んで「ほんとによかったですね」と真代が白い歯を見せてエクボをつくる。

　笑顔と泣き顔にまみれながら一つ一つ「ありがとう」を繰り返し、頼りない足を引きずりながら握手やハグで応える昭太郎。

そのながれを越えて皆の前に導かれていく。