好きだけじゃ足りない
ショッピングモールの中、嬉々としながら歩く伊織に何がそんなに楽しいのか聞きたくなる。
「メグ、これは?」
「派手すぎ…」
「じゃあこれな。」
「いや、アンタ話し聞いてる!?」
ゼロが当たり前に4つは付く店で私の服を選ぶ伊織は私の言葉なんか聞いちゃいない。
あれやこれやとすでに両手いっぱいの服達。私に着られるのが可哀相になってしまった。
「伊織…」
「あ?」
「買いすぎだから。ってかそこまで無駄に金を使うな!」
わからない…金持ちの考える事はまるっきしわからない。
完全にセレブ買いな伊織の腕から服を引ったくって半分以上を元の場所に戻す。
「あのね、私は服とか小物なんていらないの。あるもので十分なんだから。それに……私は伊織といられる事がプレゼントなの!」
「おま…はぁ、わかった。でもこれは買うからな。」
恥ずかしさを吹き飛ばす勇気を持って口にした言葉に優しく目を細めた伊織の手には白いワンピースと水色の編み上げのカーディガン。
これでもかなり譲歩したんだと言いた気な伊織に苦笑いを浮かべたまま頷いてみせた。
頷いた私に満足そうな表情で店員のお姉さんにそれを渡した伊織は財布からカードを出して支払いをしている。
「あ…ちょっと待って……それ、いくら?」
「…………気にすんな。」
「いや、気になるから。」
変な間を空けた伊織に眉を寄せて、店員のお姉さんが持つ二つの服のタグを見て開いた口がふさがらなかった。