好きだけじゃ足りない
胸倉を掴んだまま引き寄せて今にもキスができそうな距離。
私がいつもいつもやられっぱなしな女じゃないって見せてやる…!
「伊織はキスだけで満足…?」
にっこりではなく、妖艶に笑って言えば口を半開きにしたまま私を見る伊織。
そんな伊織に内心にんまりと笑いながらもそれは表には出さない。
「おやすみ、伊織。」
胸倉を掴んだ手をパッと離して指先で伊織の頬を撫でてから体を離して目の前を見たらまだ口を半開きにしたまま固まる伊織。
――…ざまぁみろ。
固まる伊織をほったらかして玄関のドアの鍵を開ける。
家の中に入ろうとした時に伊織の声が聞こえてまた笑う。
「やられた…」
「今日は私の勝ち。じゃあまた明日ね?伊織。」
ひらりと右手を振って家の中へと体を滑り込ませる。
いつもやられっぱなしな私じゃない。
けど…明日は負けるんだろうなぁなんて考えながら着替え、明日の準備に取り掛かった。