好きだけじゃ足りない
空港を出てもうすぐ3時間近く経つんじゃないかって時、一件の家の前でタクシーが止まった。
「ほら、降りるぞ。」
「え…此処?」
「あぁ、ほら。」
右手を引かれてタクシーを降り、地面に足を付ける。
11月の沖縄は暑くも寒くもなくて私には調度良い。
タクシーの運転手さんから荷物を受け取ってお礼を言うと、優しい優しい笑顔でにっこりとされてなんだかそれがくすぐったい。
都会とはまるで違う愛想の良さに私の機嫌まで最高潮によくなってしまう。
「伊織君!いらっしゃい。」
「どうも、お世話になります。」
伊織に引かれた手に抗わずに一件の民家の前に立つと中から優しい笑顔の40代の女の人が出てきた。
「優斗から電話で聞いた時は驚いたわ…、でも良く来てくれたわね。貴女もね?」
「あ……お世話になります。」
「そんなに気を使わないで。さぁ入って?」
優しそうな女の人の声に誘われるように民家に足を踏み入れて思わず笑顔になってしまう。
実家のように落ち着ける空気や、迎えてくれた女の人と私とそう年が変わらない女の子。
ホッとするような空気を持つこの民家の主と伊織がどんな関係なのかは気になるけど、それでもやけに落ち着ける空気にホッと息を吐き出した。