好きだけじゃ足りない
「萌さん?」
「え?あ…すみません、ちょっとボーッとしちゃってて…」
肩をトンと叩かれて窓から見える空から明さんに視線を移す。
心配してくれているのか、眉がハの字になってしまっている明さんにもう一度謝って周りを見た。
「あれ…?」
「伊織君なら出掛けたわ。お仕事なんですって。」
「あぁ…そっか…」
「声を掛けても無駄だからそのまま行きます、って。」
にこやかに言われた言葉に多少の恥じらいを持って苦笑いをした。
確かにさっきなら話し掛けられても気付かなかったかもしれない。
沖縄に来ても考えるのはやっぱり期限付きの約束。
忘れようと思えば思うほど、楽しければその分だけ暗くなってしまう考え方に眉を寄せてしまう。
「萌さん、座りましょう?」
背中を押されて、暗い考えを振り払うように頭を振って示された場所へと腰を下ろした。
「はい、冷たいお茶を飲めば少しは落ち着くわよ?」
「すみません…ありがとうございます。」
「良いのよ。あなたたちの事は優斗から聞いているから。」
条件反射のように跳ねてしまった肩に苦笑いされる。
ひろと?
…優斗って誰なんだろう。
頭の中で悶々と考えていると明さんはにっこりと笑いながらその疑問に答えるように口を開いた。