好きだけじゃ足りない
価値観の違い
透ける色の空から明さんに視線を戻し、ただ何も言わずにまっすぐに見つめる。
「萌さんは今の自分を恥ずかしいと思う事はある?」
「いいえ!それは絶対にありません。」
グラスを握る手に力が入ってしまう。
間違っていると考えてしまう事はあっても、恥ずかしいなどとは考えた事すらない。
「それならそんなに考えすぎる事はないわ。
貴女は伊織君が好きで付き合っているのでしょう?」
明さんの笑顔に救われた気がした。
否定はしなくても肯定もしない。
そんな人達の中で、たった一人肯定してくれた明さん。
喜んじゃ駄目なのかもしれないけど、素直に嬉しかった。
「私はね、好きでもない人と結婚したの。」
「…どうしてですか?」
「そうね…政略結婚と言うやつかしら。これでもね結構良家の長女だったのよ?」
グラスを持ち上げ、一口含むと息を吐き出す明さん。
それに習うように私もお茶を一口含み、小さく息を吐いた。