好きだけじゃ足りない



「異性に対する愛だったり家族に対する愛、友達に対する愛。それに、見守る事の愛。」

「見守る事…ですか?」


ますますわからない。
グラスを持って軽やかに笑う明さんが言う"愛"は私には理解できなかった。
見守る事ですら愛なんて理解と言うよりは信じられなかった。



「見守る事でも愛は表現できるわ。
例えば……大切な人が何か大事な事を成し遂げる時とか…ね?」

「でもそれって…手伝ってあげれば早くないですか?」

「確かに、人は他人に助けられながら生きる物よ。生まれる事は絶対に一人では無理でしょう?
でもね?何でもかんでも手伝って手を貸してしまえばその人はそれ以上成長できない。

だから、本当に大切なら見守る事も愛の一つになるのよ。」


明さんの言いたい事がほんの少しだけわかった。

生きていく中で、見抜く事だ。
手を貸す場面なのか、そうじゃないのか…それを見極めて、手を貸す時は貸して貸さない時は見守る。

それが大きな愛情になる。



「不倫、と言うのはね…いけない事なのかもしれない。それを良しとするのはただ自分を正当化させる言い訳なのかもしれない。

それでも、愛すると言う気持ちはその人の相手となんら変わりないのよ。」


どこまでも大きい人だった。
グラスをテーブルに置いて、変わらずに笑顔でいれる明さんは今まで私なんか足元にも及ばない位の辛さを経験しているんだろう。




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