好きだけじゃ足りない
辛い事を経験して、それでも尚且つ自分の足でまっすぐに立つこの人に憧れてしまう。
「間違いか、間違いじゃないかなんて誰かが決める事ではないわ。」
「自分が決める事…?」
「そう。犯罪は裁かれてしまうけど、なんの訳もなく手を出してしまうなんて絶対にないもの。
絶対に何かしらの理由がある。それをわかろうとしないのは大人のエゴでしかないのよ。」
テーブルに置かれたグラスの中で氷が溶けて小さくなるのをただボーッと見ていた。
スケールが違っても、必ず何かをする時は何か理由が付き纏う。
それは誰かと一緒にいる事だって、誰かと別れる事だって同じだ。
「優に…娘が優斗の事を知った時、随分と責められたわ。
それでも、実の娘に責められても私は彼とは離れられなかった。
彼を愛していたから。」
遠い目をする明さんに胸がドクリと鳴る。
もしかしたら、今までの私はイケナイ事をしているとわかっていても、目先しか考えていなかったのかもしれない。
震える掌をテーブルの下に隠して震えた息を小さく吐き出した。