好きだけじゃ足りない


ダイニングテーブルの上に並べられるおかず達は見事に緑色が揃っている。



「伊織さん遅いねー。」

「電話してみる?」

「うん。私お腹空いた…」


言いながらおかずをつまみ食いする優ちゃんが明さんに怒られて…
これが普通の食卓なのかもしれないけど、新鮮だった。


優ちゃんと明さんのやり取りに口許を緩ませたまま、携帯電話で伊織に電話をする。



『……はーい…』

「ごめん、仕事中?」

『いや、もう着くけど。何かあったか?』


私から伊織に電話するなんて滅多にないから心配させてしまったらしく、声は少しの焦りを含むものだった。



「違う違う…遅いからちょっと……心配だった。」


言葉にするのは大切な事だって言われたから、だから少しだけ素直に伝えた。
言いたい時に言う言葉が何より意味があるって明さんに教えてもらったから。

ちらりと後ろを見ると、優しく笑ってくれる明さんと目が合ってすぐに恥ずかしくて逸らした。



「……伊織?聞いてる?」

『あ?あ…あぁ……やけに素直だな。今日のメグは。』

「っ、悪い?」


やっと返ってきた言葉に笑いが含まれているのがわかって頬が熱くなる。

私が少し意地を張る言葉と同時に玄関からガチャガチャと音が聞こえて、思わず眉を寄せた。



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