好きだけじゃ足りない
覚悟を決めなければいけない。
これ以上ないくらいに拳に力を込めて、伊織をまっすぐ見たまま一度深呼吸をした。
「…ごめんなさい……私は貴方を裏切ってたの。貴方とあの時再会してから…」
怪訝そうに眉を寄せまっすぐな視線を寄越す伊織に自嘲するような笑いが漏れてしまう。
嫌わても、罵倒されても、これ以上は伊織には隠せない。
だから、覚悟を決めた。
「伊織と再会してすぐ…ある人に私と伊織の関係を見抜かれた。」
「ある人?誰だ、それ。」
「それは……言えないわ。」
睨みつけるような鋭い視線が突き刺さって背中を冷汗が流れたような気がした。
ひんやりとした空気にゴクリと唾を飲み込んで、口を開く。
「円香さんに周りにばらされたくないなら、逆らうなって。
あの日から……私は伊織を裏切ってその人に何度も抱かれた。」
伊織を見る事はできなかった。
どんな表情をしているのか。
どんな気持ちでいるのか。
今はそれを知りたくなくて、専務の名前だけは伏せて早口ですべてを話す。
それしか今の私にはできない。