好きだけじゃ足りない
「こんな関係が周りに知られたら…私の未来なんてないじゃない?だから、」
「メグ、俺の目見て言え。」
膝の上の握りしめた拳に暖かい大きな手を重ねられて、息を呑んだ。
罵倒するわけでもない。ただ優しい声色にじわりと視界が歪んで小さく頭を振る。
「俺のためだろ。お前…自分の利益とか昔から考えた事なかったからなぁ。」
暖かい手で包み込まれた拳はじんわりと熱が篭り、それがまた居心地よく感じてしまう。
「ちが…っ、私のためよ。不倫なんてしてるって後ろ指さされたくないもの。」
「いや、違うね。メグはそんな女じゃねぇから。」
「っ…アンタになにがわかるの!」
やめて、と心が悲鳴を上げてしまう。
最後くらいは強がりな私を貫き通させて…そう言いたいのに言ってしまえば優し過ぎる伊織は一生それを背負ってしまう。
だから、罪は私が全部被る。
そのために伊織に真実なんて話したくないんだよ。
「アンタに私の何がわかるのよ…」
「わかる。何年一緒にいた?離れた三年だって俺はお前だけを想って生きてきたんだ。俺の想いなめんな。」
ギュッと握られた手が切ないくらいに痛かった。
その痛みは手なのか、心なのか、それとも…両方なのか。