好きだけじゃ足りない





「裏切り?抱かれたのが裏切りか?なら俺だって裏切ってんだよ。
三年…お前に似た奴探してお前の変わりに抱いた事だってあるんだ。

お前のそれが裏切りなら俺のそれだって裏切りだろ。」


今いる場所が明さんの家なんて頭の片隅にもないように声を荒げる伊織に反射的に俯いていた顔を上げてしまう。

目の前には私の知る伊織はいない。
いるのは見た事もないくらいきつく私を睨みつける伊織。



「俺を裏切って欺いて、最終的には別れるってか?

ふざけんな!」

「……っ…ごめ」

「謝る位なら何で最初に言わなかった?
そんなに頼りないか?そんな…言わなくて良いような事だったのか?」


怒鳴った後の静かな声ほど恐ろしいものはない。

言わなかったんじゃなくて、言えなかったんだ。

そんな言葉なんて言えなかった。
私が言わなかった…言えなかった事で他の誰でもない伊織を私は傷付けていたんだから。


握られた手から伝わる小刻みな震えにこれ以上ないくらいに胸がギュッと掴まれたように痛くなった。



「お前と…あの時また会えて素直に嬉しかった。
だけど、お前が俺といて傷付くなら…」


歪んだ世界の中で見えた伊織は一度、言葉を切ってまたまっすぐに私を見る。




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