好きだけじゃ足りない
今私がしなければいけない事をするために、立ち上がり部屋を出る。
素足で階段を駆け降りるとリビングに明さんがいて、伊織の姿は見えなかった。
「明さん!伊織は…?」
「散歩に行くって言って出たわ。海岸にいるんじゃないかしら?」
多分、明さんは何があったかなんてお見通しなんだろう。
苦笑気味にそう言い、私を見る目は深い色をしていて何を考えているかなんてわからないけど…
それでも責められているわけじゃないとわかって少なからずホッとしてしまう自分がいる。
「出掛けてきます!」
「わかったわ。
あ、そうそう…家の前の道を真っ直ぐ歩いて一つ目の曲がり角を右に行けばいいわよ。」
「…ありがとうございます!」
癒されるようなほんわかした笑顔で丁寧に道程を教えてくれた明さんに頭を下げた。
玄関でサンダルを引っ掛けて、街灯もない田舎道をただ走る。
今、自分にできる事をするため。
それよりも…会いたい人に会いに行くために。