好きだけじゃ足りない
両方のほっぺたを暖かい手で押さえられて、強制的に伊織と目が合ってしまう。
「…離して…っ」
「さっきの。やっぱ撤回。」
にっこりではなく、にんまり。
ほっぺたを押さえられたまま私は眉を寄せて目の前にいる伊織を見る。
「やっぱさ…メグから離れらんないしなぁ、俺。」
「……でも私っ、」
「悪かった。お前が此処に来なかったら本気で手放すつもりだったんだけど…」
ほっぺたを押さえていた両手が離れて、瞬間に伊織の腕に包まれるように抱きしめられてしまう。
「でもお前来たし。だからさっきの撤回。」
「でもっ…私伊織以外の…」
「別に良い…訳じゃねぇし、俺以外がお前抱いたの気にいらねぇけど…
メグはそれでも俺が良いんだろ?」
痛いくらいに抱きしめられた体が寒いわけでもないのに震えてしまっていた。
多分、それは…また伊織と一緒にいても良いと言われたような気がしたから。
コイツの言う通り私は何があったって伊織がいいんだ。
違う、伊織じゃなきゃきっと私は駄目なんだろうね。
「俺が良いんだろ?」
「――…伊織じゃなきゃ駄目!」
本当はずっと前から気付いてたんだよ。
私は伊織がいなきゃ生きてなんていけないんだって。