好きだけじゃ足りない

「なぁ、寂しかった?」

「………別に。」


そう答えるのをわかってて聞いてきてるんだ。
この男はそう言う男だから。



「意地っ張りは昔から何も変わってねぇな。」

「……それはどうも。」


意地っ張りなのは自分が一番よくわかってるんだから、貴方に言われなくたって…わかってるよ。

でも仕方ないでしょう…?
私はそう言う女なんだから。



「言えよ。」

「…なにを」

「寂しかったって。

俺に会えなくて寂しかったって言えよ。メグ…」


信号待ちで止まった車内、伊織が私を見ているのに気付いていても見る事はしない…できない。



「メグ、言え。」

「っ…冗談じゃない!どうしてアンタはそう勝手なのよ!」


うんざりだ。

自信過剰な伊織にも。

優柔不断な自分にも。



「伊織…いっつもそうじゃん。自分の意見は押し通して私の言う事なんか聞いてくれないくせに…」

「くせに?なんだよ。」


走り出した車はたぶん法定速度を軽く上回っている。

顔なんて見なくてもわかる。
この男は怒っている。怒ると口調も荒くなるし、運転だって荒くなる。

忘れたいはずなのに、忘れるどころかこの男の一挙一動を鮮明に思い出してしまう。


あぁ…、私ってこんなに未練がましい女だったのかな。



「……別に。」


伊織が私の言う事聞かないんじゃないんだ。
私が伊織に言いたい事を言っていなかったんだ。




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