好きだけじゃ足りない
「ちゃんと仲直りはしたみたいね?」
暗い夜道を通って明さんの家に帰って、玄関のドアを開けた途端に聞こえた言葉に苦笑いをしたまま伊織と目を見合わせてしまう。
「すいません、お騒がせしました。」
「気にしないで。伊織君が萌さん大好きなのがわかったから。」
「………まぁ…はい…。」
にっこりと笑いながら伊織を言い負かす明さんに内心は拍手喝采だ。
私じゃ絶対にできない芸当に少なからず尊敬してしまう。
繋がれた左手をギュッと握って、伊織を見れば苦虫を噛み潰したような表情に少し笑ってしまった。
「二人とも、素直にならなきゃ駄目よ?じゃないと…後で絶対に後悔するんだから。」
この言葉には素直に頷いてしまう。
伊織が帰って来る前に聞いた明さんの話しが頭を過ぎったからか、それとも素直にならなくて後悔したことがあるからかはわからないけど。
「あ、そうそう。明日は優もお休みだから水族館にでも行きましょうね。
伊織君はお仕事だけど。」
「水族館?やった!行きます行きます!」
「は?俺いないのに?」
水族館と言う言葉に手放しで喜んだ私の隣で若干拗ねたような奴が見えたけど。