好きだけじゃ足りない


「え?伊織いなくたって水族館は行けるじゃん。」


何言ってんだ、アンタは。

と、目で訴えれば伊織な眉を寄せた後に呆れたようにため息を吐いている。

ため息の理由がわからないと明さんを見れば、苦笑いでしかも同情を込めたような視線を伊織に向けていた。



「萌さん…伊織君はね、萌さんと一緒に行きたいのよ。」

「………そうなの?」


水族館なんていつでも行けるじゃん、と思わず首を傾げた私の頭を軽く叩いてまたため息を吐いた伊織にちょっとムカッとしてしまう。



「お前な……恋人と旅行なのにその恋人ほったらかしで水族館とかどうなんだよ。」

「…だって……伊織仕事じゃん。」


唇を尖らせたままで睨みつけてやる。

"本当は一緒が良い"

なんて言わない。頭叩いた仕返しに絶対言ってやらない。



「明日の仕事キャンセルして別の日にするから。」

「は?それ、社会人として駄目でしょ!」

「俺は仕事よりメグ。」


さも当たり前のように言う伊織に呆れてもう何も言えなくなってしまった。

社会人としては駄目だけど、仕事より大事だと言われたのは実はちょっと嬉しかったりもする。





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