好きだけじゃ足りない




「俺達の事わかってるやつは、拓海か彬かマスター。

でも拓海は違うな。アイツはんな事できる奴じゃねぇし。」


もうすでに答えがわかっているかのような言葉に視線を上げて伊織を見る。

射るような視線を一度見てしまえば、視線を逸らす事なんてできずにごくりと唾を呑んだ。



「マスターも違う。だろ?」

「………わかってるんじゃないの…?」

「わかってるさ。彬だろ。アイツ、ひねくれてるからな。」


事もなげに言った言葉と裏腹な視線に冷や汗が吹き出す。

獲物を狙うような鋭い視線と、纏う空気が言うまでもなく伊織が相当怒っているとわかる。



「アイツだろ?」

「……それはっ、」

「メグ、庇う必要も怯える必要もねぇよ。」


ビクリと体を揺らせば、幾分かは優しさを含んだ声にじんわりと目尻に涙が溜まる。

全てがバレてしまえば捨てられたって文句は言えないと覚悟していた。

それなのに…伊織は捨てるどころかこうして手を握って隣にいてくれている。



「………人のモノに手だしたらどうなるか、アイツはわからねぇとな。」


優しさを含んだ言葉の後は底冷えしてしまうほど冷たい言葉。

本来の伊織は優しい人間なんかじゃない。
欲しいモノは何があっても手に入れる、それが何であっても。



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