好きだけじゃ足りない
壁掛け時計を見てヒクリと口許が引き攣ってしまう。
「何時?」
「……6、時…?」
「正解。寝坊するお前がこの時間に起きるとか奇跡だな。」
にんまりと馬鹿にしたような笑いを随えながら嫌味を言うコイツに悔しい事に反論できずにいた。
私が反論したり、反抗したところでコイツには痛くも痒くもないんだろうけど。
それでもやっぱり腹が立つから手近にあった枕を伊織の顔面目掛けて力いっぱい投げつけた。
「こら、物を投げるな。」
「うっさいっ!」
「ガキ。」
枕を投げようがたいして効いていない伊織に更にイラッとしたまま睨みつけたら、当たり前のように笑って流されてしまう。
「メグはガキで良いんだよなぁ。変に大人になるよりは…
今のメグのが俺は好きだし。」
笑いながら布団から抜け出した伊織の声にイラッとしていた気分なんて手を振って私から離れていく。
布団に包まっていた時より近くなった距離にドキリと心臓が早鐘を打ち、伊織に向けた視線を横にずらして小さくため息を吐いた。