好きだけじゃ足りない
伊織はずるい。
いつもいつも私を喜ばせるような事を平気でしてしまうんだから。
「着替えるかぁ…」
「……うん。」
イラッとしていた気分はもうどこにもなくて、今のこの静かに流れる空気が何より心地好かった。
「…ちょっと!何で堂々と脱いでんの!?」
「は?今更だろ。何回も見てんじゃねぇか。」
「それとこれは別だから!」
静かに流れる空気なんてほんの一瞬。
布団から完全に出た伊織が当たり前のようにスウェットを脱ぎだしたのに焦ってしまう。
そんな私に構うこともなく、平然とスウェットを脱いでいく伊織。
「あ、シャワー借りるか。」
「……お願いだからパンツだけでウロウロしないでよ。」
「履いてるから良いだろ。
あ……これも脱ぐか?」
にやりと笑った伊織は唯一身につけているパンツまで脱ごうとしていて、焦るを通り越して最早呆れてしまう。
「脱がなくて良いから。」
「そ?じゃあ…一緒にシャワーでも浴びるか。」
「いらんわ!」
悪ふざけするコイツに、鞄に入っていた着替えを投げつけてそのまま逃げるように部屋を出た。
「……っ、変態!」
誰もいない階段で叫んだところで何もないけど、少なくても私の鬱憤は少しは晴れてくれる…かもしれない。