好きだけじゃ足りない
わざと音を立てながら階段を駆け降りてキッチンに駆け込むと、既に明さんと優ちゃんが起きていて笑顔で迎えてくれた。
「おはよう、萌さん。」
「おはよー!」
「……おはようございます。」
二つの笑顔に多少癒されつつもまだ機嫌が悪い私に苦笑いの目の前にいる親子。
優ちゃんの隣に座り、明さんが出してくれた暖かいカフェオレを飲みながら小さくため息を吐いてしまう。
「伊織さんと喧嘩したの?」
「や…喧嘩ではないと思うけど…ちょっと、ね?」
苛つくのを隠すには苦笑するしかない。
カフェオレの入ったマグカップを持ったままで苦笑いをしてからため息を吐き出す。
「多少は許してあげてね?伊織君も萌さんと二人で居られるから嬉しいのよ、きっと。」
多分、嬉しいのは伊織だけじゃない。
私だって気兼ね無く…とは行かなくてもあまり周囲を気にしないで伊織と居られるからのはやっぱり素直に嬉しい。
ただ、円香さんに後ろめたいとかの気持ちはやっぱり拭い切れずに視線をマグカップの中に広がる波紋に移した。