好きだけじゃ足りない
専務の事で強気に行こうと決めても、それでも伊織と私はイケナイ関係なのは変わらない。
強気ってどこまで強気で良いのか、どんな理屈を並べたところで正当性なんかこれっぽっちもないのかもしれない。
波紋を見つめたままで思考はどんどん暗闇に突き進んでしまう。
「…まぁた一人で考え込んでんのか、お前は。」
「別に……そんなんじゃない。」
いつの間にか後ろにいた伊織にも気付かない位に暗闇にのめり込んでいたのか…。
頭をくしゃくしゃ撫でられても視線を伊織に向けることはしなかった。
「…メグ、お前…」
「伊織君、ご飯食べましょう?早く行かないと冬季は閉まるの早いのよ。」
視線を落としたままの私にはわからないけど、伊織にも明さんにも優ちゃんにも気を使わせたと思う。
こんな自分じゃ駄目だと思うのに、変に考え込んで落ち込むのだけは直ってくれない。
「ほら、早く食わないと水族館行けなくなるぞ?」
「……うん。」
「言いたくなったら言え。いつでも聞いてやる。」
隣にどっかりと座る伊織に漸く視線を向けて、声にはできなかったけど何度も"ありがとう"と心の中で呟いた。