好きだけじゃ足りない
ライトに照らされたクラゲを見終わって伊織が歩きながら広げたパンフレットを見る。
「あ、ショーあるんだ。」
「行くか?」
「もちろん。」
薄暗い水族館の中を手を繋いだままゆっくりゆっくりと歩く。
ショーのあるプールまでの道程にも水槽がいくつもあって、様々な魚が泳いでいる。
見たことのある魚からそれこそ見たことも聞いた事もないような魚まで様々だった。
「………口開いてる。」
喉の奥で笑うようなくぐもった笑い声に指摘されたように開いたままだった口を慌てて閉じる。
「楽しい?」
「…まぁ…ね。」
「そりゃ良かった。少しは気分転換になったろ?」
見上げた顔は凄く優しい表情で、ドキリと胸が高鳴った。
優しい表情を見せる事もあるけどやっぱりいつ見てもドキリとしてしまう。
早鐘を打つ心臓の音をごまかすように伊織から視線を外した。
「お、イルカ。」
「うそ!どこどこ?」
「プールのとこ。ほら、行くぞ。」
光が射す先のプールに見えたイルカに私ではなくて今度は伊織がはしゃぎだす。
引っ張られるままに走りながら、ちょっと違う一面が見えた事に嬉しい気持ちを持ちながら小さく笑ってしまった。