好きだけじゃ足りない
"おぉ〜"とか、"わぁ〜"とか、"きゃ〜"とか。
ショーが始まればいろんな歓声なのか悲鳴なのかよくわからないような声があちらこちらから聞こえて来る。
「うわぁ…可愛いー…」
「口、開いてるから。」
ぽかんと口を開けたままでショーに魅入っていると伊織には笑われたが、今は気にならなかった。
それよりも飛んだり泳いだり、それこそ芸をしたりと水飛沫を上げながら観客を魅力するイルカ達にただただ魅入ってしまう。
「イルカって頭良いよなぁ。」
「IQ高いらしいね。あっ、すごいすごい!!」
ショーが始まってからずっと拍手をしている気がする。
それは私だけではなくて、もちろん隣にいる伊織も。
可愛らしいイルカや動物達のショーに安らぎほんわりとした気持ちになる中で、ジーンズのポケットに入れていた携帯電話がブルブルと着信を知らせるように震えていた。
「…どうした?」
「――…ちょっとごめん。」
ポケットから携帯電話を取り出して、思わず眉を寄せた私を伊織は心配そうに見下ろしているのがわかるけど…
それには答えずに、携帯電話を手にしたまま苦笑いをして席を立つ。
安らぎの中には必ず陰がある。
会場に背を向けたまま、震える指先でボタンを押した。
「―――…はい…。」
その電話が何を示すか、なんて私には予測すらできないけれど。