好きだけじゃ足りない
「うちの親と、あと会社……あ、拓海さんにも買わなきゃね。」
「何で拓海だよ。」
「え?だって一緒に来てるのどうせ知ってるんでしょ?」
お酒かお菓子か、それとも置物か。
目の前にある品物を物色しながら言った言葉は確実ではないけど、大方間違いでもない。
伊織の事だから絶対に拓海さんには言っている。
そんな予想でしかなかったけど、間違いはないみたいで罰が悪そうにそっぽ向いている伊織が子供みたいで可愛かった。
「拓海さん、これとかどう?」
「いや、こっちだな。」
私が手にしたのは沖縄のお酒で泡盛。
一方で伊織が手にしたのは、個人的に気に入ってるのかまたシーサーの置物。ただ私に押し付けたやつより小さくちょっと可愛らしいやつ。
「………なんでそれ?」
「似てんだよなぁ。アイツの好きな子に。」
「え…拓海さんって好きな人いたんだ!」
手の平よりもまだ小さいシーサーの置物はライオンと言うよりは小動物系に見える。
それを掲げながらの伊織の声に思わず大きな声を上げてしまった。
「いるいる。今年の新入社員だけど…これがまた可愛いんだわ。」
「……ふーん。じゃあそれで良いんじゃないの?」
伊織の口から"可愛い"と言われる女の子に胸の奥がモヤモヤする。
気持ち悪い感情が口調にも出ていたらしく、伊織はにんまり笑ってるけど。