好きだけじゃ足りない
"ありがとう"と言う言葉は思うほど現実的に使えない気がする。
軽々しく言ってしまえば有り難みはないし、かと言って真剣に言うのも気が引ける。
もしかしたら、ただ私の性格の問題かもしれないけど。
「後は?いらねぇのか?」
「――…言えない…。」
「メグ?…おーい、メグ?」
「は?え?」
目の前をヒラヒラと動く大きな掌に現実に戻されて見えたのは目尻を下げて困ったような表情の伊織。
「だから…これだけで良いのか、ってどした?」
「な、にが?」
「……何泣いてんだよ。」
あぁ、私泣いてたんだ。
だから伊織が困ったような顔していたんだ。
自分が泣いてる事に気づいた途端に訳も解らない涙が次から次に流れてポタポタと伊織の掌に落ちてしまう。
「外出てろ。これ払って行くから。」
乱暴に涙を拭かれて私は俯いたままで店を出ようと足を踏み出す。
自分でもどうして泣いているかわからなかった。
ただ、無性に悔しいような寂しいようなぐちゃぐちゃな感情が大半を占めていて、自分じゃどうする事もできなかったんだ。