好きだけじゃ足りない
店を出て、視界に広がる突き抜ける空と深い深い海を見ながら頬を滑り落ちる涙を手の甲で拭った。
別に泣きたいわけじゃない。
それでも泣いてしまう理由(わけ)もわかっている。
「泣き止んだか?」
「……ごめん…いきなり…」
「気にすんな。ほら、とりあえず戻るぞ。」
右手に紙袋を持ったままで優しく口許を緩ませて髪をくしゃくしゃ撫でてくれる伊織。
差し出された左手にゆっくりと右手を重ねて、そのまま引っ張られるようにゆっくりと歩く。
「すげ…潮の匂いすんな。」
「海近いしね。」
「さっき、何で泣いてた?」
手を繋いだままゆっくりと歩きながら、私を見る事もなく聞かれた言葉にどう答えるべきかわからなかった。
泣いてた理由(わけ)を話せば良いのかもしれない。
でも…それを話して馬鹿にされるのも嫌だ。
ゆっくりとした歩調はさらにゆっくりになりながら視界をさ迷わせていれば、隣にいるコイツは吹き出すようになぜか笑い出した。
「……なに。」
「いや…ホント……可愛いな、お前。」
「………は?」
喉の奥で笑うような声を出すコイツを見上げながら眉を寄せれば繋がれた掌に力がこめられる。