好きだけじゃ足りない
笑い続ける伊織に眉間にギュッと力を込めて睨み付けたところでなんの効果もない。
「まぁ…理由くらいなんとなくわかるけどなぁ。」
ひとしきり笑い終わったのか、また繋がる掌を握り直されゆっくりとした歩調は少しだけ普通の速さに戻る。
「"言いたい事が言えない自分に腹が立つ"…だろ?」
「…………違うから。」
「いや、違わないな。メグはすぐ顔に出んだから隠すの無理だろ。」
違う、と言いつつもそれが当たり。
言葉が大切だってわかったはずなのに伝えられない不甲斐ない自分に腹が立ったんだ。
当たり前のように私をわかってくれている伊織に有り難いと思うのと同時に、隠し事ができないのは不便だとも感じてしまった。
「今まで素直に言葉にしなかった奴がいきなり素直になるなんて無理な話だろ。」
「そんな事…」
「無理だって良いだろ。少しずつ言葉と態度で表せば良いんじゃねぇの?
表現の仕方なんてそれぞれなんだし。」
この男はいつも意図も簡単に心の中に高くそびえ立つ壁を壊してくれる。
今だけじゃない。
昔から、それこそ出会った頃から私が何かを言わなくても気持ちを察してくれるんだ。