好きだけじゃ足りない
「なぁ、メグ。」
今までの優しい笑顔を引っ込めた伊織に動かしていた足を止めて、見上げるように視界を伊織に移す。
「向こうに戻ったら…」
暖かい陽射しを背に立つ伊織は傍にいるはずなのにどこか遠くにいるような気がしてしまった。
「アイツに話そうと思う。」
迷いなんて微塵もない。
確定させた事をただ伝えているような伊織に私は何も言えなかった。
いつかは通る道なのかもしれない…違う、必ず通る道なんだ。
それでもまさか伊織から話すなんて思いもしなかった。
「話してどうにかなるかわからねぇけど…少なくともお前が彬になんかされる事だけはなくなるだろ。」
「………私のため?」
「いや、俺のため。
お前が彬になんかされるって思うだけで腹立つから。」
髪をくしゃくしゃ撫でられながら心中は複雑なまま。
楽しかったはずの今なのに、急激に色を失ってしまう。
「きっちりケジメ、つける時が来たんだよ。」
伊織の優しい音色にすら不安は増殖して、ぐちゃぐちゃな思いは言葉にはできなかった。
今、確実に言えるのは…
きっとすぐそこまで結末が見えているって事。
明日、帰ればそれぞれのカタチをはっきりさせる時が来るのかもしれない。