好きだけじゃ足りない
「やっと着いたなぁ…」
「ずっと寝てたんだから時間なんてわからないでしょ、アンタ。」
座りっぱなしで固まった筋肉を解しながら横目で伊織を見る。
見られた本人は苦笑いのままで、ごめんごめん、と誠意が篭らない謝罪をしながら預けた荷物が流れて来るのを待っている。
「そうだ。メグ、今日泊まってくだろ?」
「は?帰るよ。」
「何で?明日まで休みだろ。」
流れて来た荷物に見向きもしないで私を見ている伊織に変わって荷物を引き寄せて足元に置く。
泊まる事が当たり前のように言っているけど、実際は当たり前なんかじゃない。
泊まりたいと一緒にいたいと思う自分に対して、断れと思う自分が葛藤してしまう。
「何かあんのか?」
「……別に。とにかく、今日は無理。空港出たら一人で帰るから。」
そう、今日は無理なんだ。
伊織には言えない、それでもどうしても行かなきゃいけない場所があるから。
だから…ごめんね。
そう心の中だけで呟いて視線を足元に落とした。