好きだけじゃ足りない
「お前、これからどこ行く?」
「……家に…」
「帰らないだろ。言えよ、これからどこ行くんだ?」
預け入れ荷物の受け取り場所を出て、まっすぐ出口に歩いて伊織からの言葉には何も返さなかった。
違う、返せなかったんだ。
あまりにも悲しそうで…
あまりにも苦しそうで…
あまりにも寂しそうな伊織に、汚い私を見せたくなかった。
結局、私は私が一番可愛い。
汚い女なんだ。
「…っ、夜にでも連絡する!」
「メグ!」
「ごめん…今は言えない。」
ただそれしか言えない。
いつか、必ず言うから。そう心の中で誓いながら伊織の手を振りきって逃げたんだ。
これがどんな結末を生むかなんて想像すらしないで。
今まで持ち越してしまった時間を戻すために、ただ前に進む。