好きだけじゃ足りない




「お前、これからどこ行く?」

「……家に…」

「帰らないだろ。言えよ、これからどこ行くんだ?」


預け入れ荷物の受け取り場所を出て、まっすぐ出口に歩いて伊織からの言葉には何も返さなかった。

違う、返せなかったんだ。

あまりにも悲しそうで…
あまりにも苦しそうで…

あまりにも寂しそうな伊織に、汚い私を見せたくなかった。


結局、私は私が一番可愛い。

汚い女なんだ。



「…っ、夜にでも連絡する!」

「メグ!」

「ごめん…今は言えない。」


ただそれしか言えない。

いつか、必ず言うから。そう心の中で誓いながら伊織の手を振りきって逃げたんだ。

これがどんな結末を生むかなんて想像すらしないで。


今まで持ち越してしまった時間を戻すために、ただ前に進む。





< 169 / 194 >

この作品をシェア

pagetop