好きだけじゃ足りない


「今、なんで私を好きなんだろう。とか思った?」

「………別に。」


こいつに素直になるのはなんだかいただけない。
だからとりあえずの意地を張る。すぐに見破られるだろうけど…



「俺はメグだから好きになったんだよ。
もっと美人なやつらなんて腐る程いるけど…自分でも不思議だけどメグしか好きになれねぇ。」


自分が、どれだけ恥ずかしい事言ってるかわかってる…?
伊織が真剣なのは痛いくらいにわかるんだけど…、


私は有り得ない位恥ずかしい。


ほんと……有り得ない。



「……これでフェアだろ。」

「は?」

「俺が本心言ったんだ。今度はお前の番だろ。」


狭い車内には微妙な空気が流れるけど、お構いなしに私を追い詰めるのがコイツのやり方。



「言えよ。」

「………何をよ…。」


さっきまでの不機嫌さなんて微塵もないこの男は、今は物凄い楽しんでいる気がする。

私は自分でも認めるくらい意地っ張りだし、素直じゃない。

と言うか、好きとか愛してるとか、そんなの恥ずかしくて言えるわけないじゃん!



「…言えよ、メグ。」

「っ…!」


狭い車内で器用に体を捻って耳元で囁かれた。
背筋にゾワリとしたものが駆け巡って、余計に言えなくなる私を意地悪く楽しんでいる伊織。



「ほら…早く。」

「は、離れて…っ!」

「言うまで無理。

言っても無理だけど。」


ニヤリと妖しく口許を歪ませる伊織に頬に熱が集まるのがわかった。


――…駄目だ。敵いっこないんだ、コイツには。


それでも素直になれない私はできる限り体を離して、目の前の伊織を睨みつけていた…。



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