好きだけじゃ足りない
早鐘は鳴り続ける
「さすが、メグちゃん。ホントに一人で来たんだ。」
「一人で来いって言ったのはそっちでしょ。」
空港で伊織を強制的に振りきって逃げた後、自宅には戻らなかった。
目の前には如月専務。
専務は笑っているはずなのに、私にはそうは見えなかった。
トラウマにまではなっていなくても恐怖心がないと言えば嘘になる。
それでも…私には逃げる事は許されないんだ。
「……話しってなんですか。」
「ん?あぁ……ゲーム一時中断してあげるよ。」
専務が笑って言った"ゲーム"と言う言葉に唇を噛み締めて拳をギュッと握りしめた。
私がどんなに苦しんでもこの男にはただの暇潰しの"ゲーム"にしか過ぎないんだ。
それが悔しくて…それでも反抗も反論すらもできない自分が1番に悔しかった。
「ばらしたらそんな顔見れなくなるしねー。」
「……あんた…最低だ…っ」
「最低?最低はどっち?
知らないとこで他人の旦那を取るお前とどっちが最低なんだろうなー?」
此処、人がたくさんいるカフェの中のはずなのに…息が詰まりそうな圧迫感に額から冷や汗が流れ落ちる。
どこかいつもおちゃらけた感じがした専務はどこにもいない。