好きだけじゃ足りない
目の前に居るのは、鋭く私を睨みつける男。
鋭い視線から逃げる術を持たない私はただそれを真っ正面から受け止めて指先を震わせるしかない。
「どうせいっちゃんだってもう知ってんでしょー?」
一瞬で鋭い視線を引っ込めた専務にゴクリと生唾を飲み込み、膝の上に置いた手を見るしかない。
「……アンタはゲームなのかもしれないけど…私たちは違う。」
「だから?本気だって?
笑えもしない話しだね。」
萎縮するな、負けるな。
自分に言い聞かせて膝の上にある手から目の前の男に視線を移した。
「アンタは馬鹿にするかもしれない。でもね…
私は三年、伊織だけを好きでいたの。」
だから何?と言う視線からも目を逸らさず、小さく深呼吸して真っ直ぐに目の前の男を睨みつけた。
ただの強がりなのかもしれない。
それでも、三年前みたいに気付いたら何もなくなっていた。
そんなの御免だ。そんな事になるなら何があったって自分に正直に在りたいと思うようになれた。
――…そう思えたのは、いつだって真っ直ぐに私にぶつかってくれる伊織がいたからだ。