好きだけじゃ足りない




「彬、お前何がしたいんだ。」

「別に。ただの暇潰し?」


カウンター席に座ったまま二人を見ながらハラハラしてしまう。

何度も喧嘩して伊織が怒る所なんて見ているはずなのに、ここまで苛立った伊織を見るのは本当に初めてかもしれない。

専務を見据えたまま腕を組み、怒鳴るわけじゃなくて静かに専務に語りかける伊織に余計に恐怖が増長してしまう。



「大体さー…あんな良い奥さんいて不倫なんてしてるいっちゃんの方が悪いだろ。」

「それは否定しねぇよ。ただ…やり方が汚いんだよ、お前。」


グッと掌に力が入る私の頭をマスターは優しく撫でてくれる。
私が元凶なのに何もできない自分が不甲斐なくて、何よりも悔しかった。

テーブルを挟んで睨み合う伊織と専務に小さく息を吐き出して、俯いた。



「メグちゃん、ちゃんと見なきゃ駄目だ。君の事なんだから。」


頭を撫でていた掌で肩を軽く叩かれてただ小さく頷いて視線を二人に戻した。

見なきゃいけないのはわかる。
聞かなきゃいけないのもちゃんとわかっているつもり。

それでも、見たくないのも紛れも無い事実でもある。



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