好きだけじゃ足りない
睨みつけようが気にもしてないコイツが憎らしかった。
――…悔しい…っ、
「メグ、言えって。」
「…キライ…っアンタなんてキライ!」
キライ…そう思いたい。
思いたいのに……どうしてキライになれないの…?
「キライ…キライだもんっ…」
「…メグ、」
キライ、嘘だ。
まだこんなに好きなんだよ…。
ねぇ、伊織……私…まだこんなにアンタが好きなんだよ…。
「キライ…になれたら楽なのにっ…なんでよぉ……」
「っメグ…!」
私ってこんなに弱かったのかな…。
伊織に捨てられて、違う…捨てられたって思い込んで、強くなければいけないって思っていた。
「メグ……ごめん、全部俺のせいだ…。」
狭い車内でこれ以上ないくらいにくっついて…、痛いくらいに背中に大きな手が回っている。
伊織の背中に腕を回したい自分がいるのに、意地っ張りな私はそんな事は絶対に言えない。
「メグ、言えよ。」
「っ…何を…」
「俺が好きだって…言えよ。」
何で、何でコイツはこう強引なんだろう…。
何で私は…コイツをキライになれないんだろう…。
「言えよ…。」
「……言わない。」
「ふーん……言わないなら…お仕置きするぞ?」
妖しい響きを妖しい笑みを浮かべながら当たり前のように言うコイツ。
そんな声にも、私は逆らえない。頭では忘れているはずなのに身体は正直すぎるくらいに覚えている響き。
――…私はコイツにはきっと一生勝てないんだ。
「ほら、早く…」
「言わない!」
「5秒以内……ご……よん…さん……」
狡い、ズルイよ。伊織…。
私ばっかり余裕がないみたいで…ほんとに狡い。