好きだけじゃ足りない
私の中の時計が動きはじめた。
考えなしだった、そんな私の中の時計は後悔しても逆回転はしてくれないけれど。
「メグ…怪我は?」
「…っ、ごめ…なさいっ…」
「良い。メグが生きてんならそれで良い…」
ペたりと座り込んだままの私を痛いくらいの力で抱きしめてくれた伊織の声が、腕が震えていた。
――…ごめんね…、
ただ、言葉にできないごめんねを何度も繰り返しているしかできなかった。
「彬…手見せなさい。」
「いって…ちょっとマスター!もっと優しく扱ってよー…」
「馬鹿な事した報いだな。」
隣でマスターと彬くんの声が聞こえてゆっくりと視線をそちらに移した。
「彬、お前…メグが好きか?」
私を抱きしめたままの伊織の声にビクリと肩を揺らして、ゆっくりと視線を外した。
彬くんがどんな表情をしてるかは視線を外した私にはわからないけど、それでも伊織と彬くんが視線を交わせているのだけは嫌でもわかってしまった。
「は?俺がその子を?」
「好きだからこんな事したんだろ、お前。」
「いっちゃん…変に勘が良いのも困ったもんだよねー。」
声を上げて笑う彬くんに、やっぱり私は違和感を持ってしまう。
――…何か違う。
ただそう本能が告げたんだ。