好きだけじゃ足りない




「嫌いだよ。


――…でも、好きかもね。
あぁ、でも…」


その声に伊織の腕に力が篭る。

下を向いた視線を彬くんに移して、ただ真っすぐに見つめるとすぐに逸らされた視線で本能で告げられた事は、事実なんだって突き付けられた気がした。



「お前がメグを好きでも…俺はコイツを手放す気なんてない。」

「じゃあそれで良いんじゃない?って言うかさ…最後まで話し終わってないしね。」


にんまりと笑う彬くんはさながらに悪戯が成功した子供みたいで、私も思わず笑ってしまった。

笑う彬くんと私に不服そうな伊織はふて腐れたような表情で私を見ていても、今はそれはただの笑いの種にしかならない。



「メグちゃんは比較的好き。でも三番目かなー。」

「それはまた微妙な位置付けだな。」

「まーね。俺の1番は昔から変わらないから。」


何もかも見越したようなマスターの言葉に伊織は首を傾げるし、何よりも私もちょっとだけ首を傾げた。



「三番目?メグは三番目なのか?」

「そうそう。今のとこいっちゃんよりは上。」

「あ、私…伊織より上なんだ…」


こんな状況で思って良いかはわからないけど、不謹慎だと思いながらほんの少しだけそれが嬉しかった。



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