好きだけじゃ足りない



「いたいた…今日、どう?」


左手をブンブン振りながら近付いてきた犬のように人懐っこい笑顔にまた口許を緩ませて小さく頷いた。



「じゃあいつものとこね!」

「わかった。じゃあ終わったら行くね。彬くん。」

「………堂々と浮気かよ…」


彬くんとは色々あったし、こんな風に笑って話す日がくるなんて思わなかった。

一時は恨んだし、憎いとすら思ったのに…彬くんの真実の扉に触れて、今こうしていられる。

それは今まで苦しんだご褒美なのかなぁとも思うんだ。



「あれ、いっちゃん居たんだ。」

「お前……ムカつく男だな。」

「褒め言葉として受け取っとくー。」


こうして伊織を弄って遊ぶ彬くんに笑って、それに子供のように食いつく伊織にまた笑う。

幸せな時間は、穏やかで影で燻る煙には気付きもしない。



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