好きだけじゃ足りない
真剣な瞳に、表情に吸い込まれそうになりながら一つ息を吐き出す。
「会わないなんて無理じゃない?伊織は取引先の部長だもん。」
「………あぁ、まぁな。
でも、メグが望むなら俺はお前が会社に来る時は顔を出さない。」
「……、変わってないね。」
本当に三年も経っているのか不思議なくらい変わっていない伊織に笑いがこぼれ落ちた。
でも、私の知る伊織のままで正直に言えば…すごく嬉しいんだ。
何も変わっていない伊織は直球で私にぶつかってくれた。
だからね、私も伊織にカーブじゃなくてストレートで返すよ。
「……三年前、私すごく傷ついたんだよ。伊織のせいで。」
「ごめん…」
少しくらい恨み言を含ませたって文句は言われないよね。
それだけの事、伊織は私にしたんだから。
「私と付き合ってたくせに…別れるとも言わないでいきなり結婚するとか言い出すし。」
思い出しただけで胸がギュッてなって痛い。
覚えた痛みはたぶん一生忘れないんだろうな…。
「しかも…結婚式が一週間後とか、ほんとにふざけんな!ってなったんだよ?」
「悪かった…。」
「別に謝ってほしいんじゃないもん。
ただね、好きな人に"おめでとう"って言う辛さ…伊織にはわからないでしょ?」
その気持ちはその人にしかわからないんだから。
好きな人、しかも恋人が一週間後に自分じゃない誰かと結婚するとか…普通は有り得ないじゃん。
あの時、私はよくコイツに"おめでとう"なんて言えたもんだ。
自分で自分を褒めてやりたい。